1.知識産業革命期のキー技術としての「KT」新時代の幕開け

はじめ

 この数年、センサー、GPS、レーダー、高感度カメラ画像等の急速な実用化によって、これまで知ることのできなかった「未知領域」例えば、微弱な動き、微細な物性、詳細な位置、物体の様相、脳内の機能等での検知によるデータの取得が可能になり、これを分析、解析するアルゴリズムや高度ソフト、人工知能(AI)等の発展、さらに高速で伝送できる通信技術やネットワーク技術等により、「未知の領域の知識化と実用化」の世界が深耕され、まったく新しい知識応用事業の展開が可能になっている。さらに、産業戦略としても、IoT(Internet of Things)、ドイツ等でのインダストリィー4.0のように、モノと価値がネットで接続した新しい価値の結合による創造、もの同士が情報交換できるような世界が出現している。現在この総称として「IT」または「ICT」革命と称して展開されている。

然し、これは「知識産業革命」ともいうべき革命が深耕しており、この新たな知識科学の展開は、「知識技術(Knowledge Technologies)の深化と応用である。このKT技術が、産業構造、社会構造、事業モデル、事業経営構造に大転換をもたらしている

1.「知識産業革命」の基本構造

 知識産業革命の基本構造は、①知識検知技術の発展による未知領域のデータ化である。センサー、レーザー

PS、超音波、高感度カメラ、顕微鏡、磁気計測、微生物機能応用、試薬等によって、微細な動き、物性、位置、不可視の可視化、空間認識、内部構造、化学変化、心理や感覚等がわかるようになった。②こうして収集したデータの「知の利用技術」として、分析、保存、編集、伝送、表示、制御、ネットワーク等の高度化が深耕している。ここには、ハード系(モノづくり)とソフト系及びその融合(統合)技術が実現されている。こうして「知識化」が拡大していく。③これらの基盤技術によって、「知の実現形態」として、知識素材/部品(薄膜、遺伝子、曲面表示等)、知識製品(3Dプリンター、ウエアラブル燃料電池等)、知識ソフト(人工知能クラウド、疑似空間、脳科学等)、知識システム(ロボット、無人物流、自動運転、再生医療等)、知識サービス(IoT、個への対応、スマートコミュニティ―、能力支援等)へと新しい実現形態が展開され、新しい「知識産業」として形成さる。

 またこれらが、社会インフラ化(プラットフォーム化)し、産業間の融合/統合化をもたらしている。さらに④この知識産業は、未来の社会価値、顧客価値としての「戦略機能」を実現するために、開発実現されていくのである。つまり、戦略機能とは、自己修復、環境観測、状態認識での過誤の減少、自動化/高生産効率、予防、最適運用等の価値実現のために、構築されることになる。

これは従来のものづくりでも価値づくりでもなく、「戦略機能」実現のためのハード系とソフト系の新たな知識統合なのであるこのことは、製品やシステムやサービスを実現するための開発や実用化ではなく、社会価値/顧客価値を実現するために、どのような技術、製品、ソフト、システム、サービスを提供するのかを先行的に設定して、そのためのツールを統合するという新たな価値実現形態となる。(参考1

こうした知識産業における競争優位は、従来産業では実現できない限界を突破し、①知の世界の拡大による新しい社会課題の解決や社会価値創造、②資源の限界/時間空間限界の突破、③的確な処理/迅速な処理、④潜在能力の支援/能力の拡大、⑤未知の可視化による新たな連携等によって、新しい世界観への移行が可能になる。(参考2)

.新時代のキー技術「KT」技術

 知識産業を推進する技術は、戦略機能を実現するためのKT(knowledge Technology)である

これは、「ITまたはICT」技術では、すでに範囲が狭すぎる。日本経済新聞等でも「IT(情報技

)またはICT」が、飛躍的に進歩し、産業や就業を塗り替えるとして、成長戦略の重要性、価値創造

社会や個人を磨く学び、サービスで稼ぐ製造業への進化、プラットフォーム企業の育成急務等社説等で掲載しているが、内容はITとAIの次世代技術としたり、AIとロボットとの次世代技術としたり、等、ITやICTの限界を超えた現状を説明しきれない。新時代転換のキー技術は、ITのみでなく、センサー、レーザー、GPS、超音波、高感度カメラ、顕微鏡、磁気計測、微生物機能応用、試薬等知識技術としてのハード系、ソフト系、またその融合系技術と応用が核になっている。日本はこうした知識技術のものづくりに大きな力を発揮することが可能である。このことからも新時代の重要な今こそ「KT(Knowledge Technology)」技術の未来の産業への果たす意味を重視しなければならない。しかもKT技術は、知識基盤の技術を称するのみでなく、この技術を展開する中で、①未来社会の見極めと目標の明確な戦略、②コアとなる知識技術/ソフト/システム/サービスをトータルとして顧客に提供する経営戦略、③新たな発想/構想、場の取り込み、④価値実現のためのグローバルな資源の獲得(人材、M&A、資金)、⑤成功条件を持続させる戦略風土等を展開する必要性が高まる。また、ハード、ソフト、サービス等を組み合わせて最適な提供をする事業モデル(ナレッジ・バリュー・モデル)に変貌させる。このことで、有用性が提示できれば、一気に市場が開拓でき、また常にさまざまな価値機能を取り込む等の方法の確立と、顧客が求める機能は流動化する。この流動化する顧客や顧客変化に対応して、リアルタイムで変革を持続させる。これまでとは異なる価値提供形態が展開されるからである。特に今後重要なモデルとしての知識技術によるナレッジ・バリューモデルは、ハード、ソフト、サービス等を組み合わせて最適な提供をすることになる

.KT技術の動向とKTによる産業モデル(情物一致=KoV

 KT技術は、さらに高度化している。各種センサー(高感度機能化、小型化等)、高精度GPS、高感度/高速カメラ、微細感度検知、処理ソフト内蔵化、省エネ/省電力等ビッグデータの膨大な蓄積を可能にし、またビッグデータ分析、人工知能応用、脳科学による脳と機能の関係、ロボテイックス応用、等を可能にする技術は、ハード系、ソフト系及びその融合/統合技術としての・読み取り技術(画像/生体情報/光/無線他)・認識/認知技術(センサー、画像他)・記憶技術(データの蓄積、高次元処理)・画像処理技術(高精度解析、パターン認識)・制御技術(高速制御、ファジー制御)・搬送技術(ロボット搬送、遠隔搬送他)・記録技術(メモリー、光、垂直磁化他)・表示技術(液晶、有機EL、曲面表示他)・遠隔確認技術(高精細画像、3D画像、音声、操作、履歴スキャン)・誘導技術(自動誘導、状況確認誘導、学習記憶誘導他)・シミュレーション(スーパーコンピュータ活用の高速処理、複雑系システムの予測、行動予測他)・モデリング(構造と機能の関係モデル、3D立体構造モデル、創薬モデル他)・選別技術(物体形状選別、目的に沿った行動選別、自動的な工具選択他)・検索技術(パターン画像検索、遠隔危険個所検索、最適データ検索他)・自動技術(誤動作回避自動技術、自動マッチング、手術等の高度動作自動支援他)・セキュリティー(変化変動確認、挙動不審察知、自動解析技術他)・微細加工処理(微細加工処理、感性加工処理支援他)等の融合/統合知識技術が、いろいろな分野に拡大し、大きなキーとなっている。

重要なのは、「IoT」ではなく、「KoV=Knowledge of Value 」である

 「KoV」とは、「知識と価値の一致」である。例えば、・事象と実体の一致(把握)=ものの動き や事象/状態の把握(挙動と機能の一致、対象物の状態特定他)・状態と判断の一致=標的の認識予測と判断の整合の一致(危険等状態の認知と対応の一致他)・規定基準仕様と実体の一致=規定基準に基づく実体の有り様(規定仕様と処理方法の一致他)・実物と対象物の真偽の一致=本人と偽者の一致(狙い通りの真偽の判断他)・権利と実態の一致=委託内容と結果の一致(内容とその結果の一致)といった新たな価値の源泉の創造を実現していくのである。

4.KTの新時代の展開

 今や世界的に「KT」競争の新時代の大転換期に突入している。さまざまな社会課題の解決や社会価値の創造、その結果としての新産業の創造、産業の融合、新たな価値提供産業が、これまでの産業の限界を突破し、未知領域の既知化で、進化する「知識技術」によって、新たな応用、価値の結合、事業形態の連携を可能にして、人類の価値の拡張、「社会・文明モデル」への変革がなされようとしている 知識技術は、ハード系、ソフト系、その融合/統合系の個別技術だったり、「KoV」実現のための融合/統合技術等であったりする。これらがますます拡大し、深化を遂げつつある。(参考3)

我が国は、「KT」を実現する基盤技術は、ハード系では、材料技術、加工技術、画像技術、製造 技術、制御技術等これまでの蓄積により比較的強い。ソフト系でも組み込みソフト技術、認識技術 制御技術、解析技術等強化してきた。然し、本格的な「KT」時代には、「戦略機能」や「情物一致 の実現の創造性や本質的な工夫が伴い、価値実現の新たな発想力が問われている 日本文化の特性は、美的感性や自然との調和や使う人間への細やかな感性に優れてモノが多く 今後の未来社会創造能力に重要な時期になる。

最後に

 知識産業革命変革期における重要性は、経営の勘や志とともに科学的か経営が重要な要素であり、情報収集と実現プロセスの中で、新たな価値が創造される場合が多くなる。 従来の経営手法は、分析を基本に、積み上げる方法論を重視したが、今後の経営には、未知領域に挑み、顧客や社会価値の迅速な判断と成功条件を形成するプロセスこそが重視されなければならない。 事業モデルは、社会モデルであり、文明モデルである。これまでの価値が、新しい社会スタイルや文明の変革にまで及ぶものになる。そこには、トップ自らが社会価値/顧客価値を持続的な課題を、経営の根底に置き、絶えず現場の感覚の中で、考え続け、変化し続けるという経営風土が醸成されなくてはならない。ますます多様化の様相を呈していくが、社会価値を創造するためには、科学技術のみでなく、社会科学・人文科学の領域を融合して事象の「観察と洞察」がマネジメントに組み込まれて、市場創出を主導し、創造的な課題解決を行う人材や 創造的な課題解決の組織構築を行うという経営スタイルが求められているのである。今後 ・知識資源は無限・知識=社会価値化・知識の循環=投資行動・知識資本社会が社会構造を変革する・もの生産から価値の生産・知識化=資本投下収益といった新たな知識資本主義への構想も検討の視野に入れる必要がある。我々は、新たな世界に突入している。知識がこれまで以上に重要な役割と機能を発揮し、未来の社会構造を換え、国家戦略、企業戦略を変革する。さらに、社会における人間の存在や企業組織における雇用の在り方や資本主義の限界を超える未来社会を予感させる。 我々は、これまでとは全く異なる国家、産業、社会、経済の模索をする時代になっている。GDPからGKVへ(Gross Knowledge Value)という展開も、この大きな転換への提起といえる。                                                                  (以上)